STEM CELL
コッツフォード 良枝

美容に再生医療という選択肢は?お肌を若返らせることは可能か解説

美容でお悩みの方。再生医療という言葉を聞いたことありませんか?
再生医療は近年注目されている医学分野です。よく事故や怪我で再生医療を利用することがありますが、果たして美容領域に応用できるのでしょうか?今回は再生医療と美容の関係についてお伝えします。

再生医療とは

再生医療とは、病気や事故などによって失われてしまった身体の細胞や組織、臓器を再生させ、機能を回復させることを目指した医療のことです。
これまで症状を抑えたり、進行を遅らせるなどの対症療法が中心だった心臓病や糖尿病、高血圧等の慢性疾患や難治性疾患に対し、新たな治療法をもたらすものとして大きな注目を集めています。

再生医療の種類

「再生医療」という医療分野にははっきりとした線引きがないのが現状です。上記で示したように再生・回復させる医療のことであり、これに当てはまる医療行為はすべて「再生医療」に含まれます。

臓器移植や義手・義足も再生医療?

臓器移植や義手・義足などは再生医療という意味合いと捉えることもできます。
また、「機能を回復させる」という観点からすると、理学療法なども再生医療として考えられるのではないかといわれています。

そのような中、近年世界中の研究者が力を入れて研究や開発を行っているのが「幹細胞」による細胞や組織、臓器の再生です。

幹細胞を用いた再生医療

幹細胞とは、自己と同じ性質を有する細胞を生み出す能力と各臓器や骨髄などあらゆる機能を有する細胞に分化する能力を併せ持つ細胞のことです。
要するに、身体に存在するすべての細胞の源であり、心臓や肝臓などの臓器の細胞も元をたどればすべてこの幹細胞にたどり着くのです。

再生医療のメカニズム

幹細胞には大きく分けて 3 種類、胚性幹細胞 (embryonic stem cell: ES 細胞) 、体性幹細胞、人工多能性幹細胞 (induced pluripotent stem cell: iPS 細胞) があります。この中で治療に用いられている細胞は体性幹細胞です。

体制幹細胞

体性幹細胞は身体のいたるところに存在し、さらにES細胞やiPS細胞のようにあらゆる細胞へと分化する能力があることがわかりました。
これまでは骨髄由来の体性幹細胞を使用することが主流でしたが、脂肪組織にも骨髄由来の体性幹細胞に似た性質を持つ幹細胞が多く存在することが分かり、細胞を採取する際の侵襲の小ささや一度に多く幹細胞を採取できるといった利点から脂肪組織由来の体性幹細胞を使う治療が行われています。

体制幹細胞の医療への活用

このような特徴のある体性幹細胞を身体から採取し、シャーレなどで培養・増殖させます。増殖した体性幹細胞を血液中や機能が低下している器官に送り、組織や細胞の修復をさせる方法が一般的に用いられています。一方でES細胞やiPS細胞を用いた再生医療は倫理上の問題や、発がん性などの副作用など課題が多く残されており、今なお研究が続いている状態です。

再生医療の治療方法

実際に幹細胞を用いた再生医療をいくつか紹介します。

軟骨再生医療

滑膜由来の体性幹細胞を用いて損傷した関節軟骨を再生する治療が行われています。
関節軟骨は事故などで損傷すると元に戻らないため、痛みがさらに増す原因となります。そこで、関節軟骨を再生させるために関節を形成する軟骨再生医療が行われます。

治療方法は滑膜を採取し、培養・増殖させます。細胞の増殖には血液に含まれる血清成分が必要です。そのため、あらかじめ採血を行い自分の血液を用いて増殖させます。増殖させた滑膜由来の体性幹細胞を損傷した関節軟骨に注射器で移植すると、体性幹細胞は関節軟骨に定着し時間をかけて軟骨細胞へと分化していきます。

筋芽細胞シート(ハートシート)

筋芽細胞とは筋肉が損傷したときに素早く修復させる細胞のことで幹細胞と筋肉細胞の間に位置します。ハートシートは脚に存在する筋芽細胞を採取しシート状に培養したもので、これを心筋に移植することで機能の低下した心筋を再生させ、進行した心不全を治療します。

現在ではiPS細胞を用いた「iPS心筋細胞シート」の研究が進められており、ハートシートの再生能に加えて心筋を補充することで、さらなる心機能の改善が期待されています。

脳卒中再生医療

骨髄液を採取し、骨髄由来の幹細胞を培養・増殖させます。増殖させた幹細胞を血液中に投与することで、骨髄由来の幹細胞が脳の血管の修復や損傷した神経部位に神経細胞として分化していきます。これにより脳卒中の再発率低下や副作用の改善などが期待されています。

再生医療と臓器移植の比較

上記で臓器移植も再生医療のひとつであると説明しました。機能の回復を目指す治療としては両者とも同じですが、細かな部分では大きく違いがあります。どのような違いがあるか比較してみました。

薬機法

薬機法とは「医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律」です。再生医療は薬機法の対象であるのに対し、臓器移植は対象ではありません。すなわち、再生医療で用いられる幹細胞などは医薬品としてみなされています。

移植および投与されるもの

臓器移植はドナーの心臓や肝臓、肺などの臓器を移植する医療行為です。これに対し、再生医療は自己の幹細胞を採取し培養・増殖させて再び体内へ投与し、損傷した組織や臓器に移植する医療行為です。

関連団体

臓器移植は1965年に設立された日本移植学会、再生医療は2001年に設立された日本再生医療学会などが関連しています。

このように同じ「移植」でも厳密には大きな違いがあります。つまり、再生医療は今までにない新たな医療分野であることがいえるでしょう。

美容との関連性について

ここまでは病気と再生医療の関係について説明してきました。では幹細胞を用いる再生医療は美容領域にも適応することができるのでしょうか。

幹細胞と加齢

幹細胞は加齢とともに減少することがわかってきました。
幹細胞は上記でも説明したように、自己と同じ性質を有する細胞を生み出す能力とあらゆる細胞へと分化する能力を持ち併せています。

加齢により幹細胞が減少するということは、あらゆる臓器や組織の再生能力が損なわれる、すなわち老化を意味します。臓器や組織の老化によりそれぞれの機能が低下し、心臓病や腎臓病などといった慢性疾患をきたすと考えられています。
医療の場合は薬物療法などが行われていますが、美容領域では老化に対抗するアンチエイジングと呼ばれる考え方が広まっています。

肌のハリと幹細胞

幹細胞治療が注目される以前、ヒアルロン酸・ボトックス注射や腹部や太ももの脂肪組織をシワなど老化が気になる部位に移植する方法が用いられていました。
この方法でも十分な効果は得られますが、移植した脂肪組織が上手く馴染まないと次第に治療前の状態に戻ってしまうことが多くありました。

それに比べて脂肪幹細胞を注射する方法は、シワに対する改善効果が顕著であることも分かっているため、脂肪組織移植と脂肪幹細胞注射を併用することで相乗的効果も得られるという報告があります。
つまり、幹細胞治療はアンチエイジング効果があると考えられています。

治療実績について

幹細胞治療の実施するためには厚生労働省に届出を行い許可を受ける必要があります。
さらに、定期的に実績を報告をする義務があり、医療行為として認められない場合は幹細胞を使った治療を行うことができなくなります。
つまり、幹細胞治療の実施に関して許可を受けている医療機関はきちんとした実績を持っていることになり、安心して治療を受けることができます。

効果の持続性はあるのか

上記でも述べたように、従来の脂肪組織を移植する方法ではうまく馴染まないといったケースが散見されましたが、脂肪幹細胞を注射し定着させることでシワを根本から改善することができます。

また、脂肪幹細胞などの体性幹細胞は分化できる細胞の種類が少なく、目的の組織に合わせた体性幹細胞を準備する必要がありますが、iPS細胞で課題とされるがん化の恐れは非常に低いことが知られており、安全性の高い医療法と考えられます。

まとめ

再生医療はまだ始まったばかりで使用できる病気や美容は限られています。しかし、限られた中でも予防しかできなかったそれらに対し、治療するという選択肢を増やすことができました。

そして、まだ研究が続けられている幹細胞より可能性を持ったiPS細胞が待っています。iPS細胞が実用化されれば、さらなる再生医療、アンチエイジングが期待できるでしょう。

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WRITER

医院長 コッツフォード 良枝 YOSHIE COTSFORD
2007年山梨大学医学部卒業、その後国際医療センター国府台病院で初期研修。研修後は日本医科大学麻酔科に入局し勤務。その後、大手美容クリニック勤務ののち、一般皮膚科、美容皮膚科などの勤務、院長勤務などを経て現在はGINZA Zen禅クリニック院長。